産廃情報ネット
2022.03.12 SDGs

SDGs禅問答 お題「旅行」

SDGs禅問答 お題「旅行」

Co2視点】

雲でCO2

皆さんは、たまのお休みに「海外旅行に行きたい」とか「温泉でのんびり過ごしたい」と思うことがありますよね。ハワイで夏休みを過ごしたり、草津温泉で日頃の疲れを癒したり・・・、最高のお休みは人生での幸せを感じるひと時ではないでしょうか。

人間には知的好奇心の追及や気分転換、その土地の美味しい食べ物への欲求などで「出かけたい」という気持ちが必ずあります。

さて、旅行には必ず「移動手段」が必要です。近所であれば徒歩や自転車、遠くなら車や電車、海外なら飛行機や船が必要となります。少し前、あの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが「飛行機は環境負荷が高いので、船(特に風を推進力とするヨット系)を利用すべし。」と抗議していたことが多くのメディアに取り上げられました。

一時、「飛び恥」(とびはじ)なんて言葉も少し話題になりました。

では、実際に多く旅行に利用される乗り物がどのくらいCo2を発生させているのでしょうか。(船はあまり現実的ではないので除外されています。)

Co2の発生量は、1人を1km輸送した時の比較(旅客)

・鉄道 18g
・バス 51g
・飛行機 96g
・乗用車 117g
・クルーズ船 430g

参考までに、上記の移動手段の利用率も記載してみます。

・鉄道 30.3%
・バス 5.5%
・飛行機 6.6%
・乗用車 57%

2018年環境省のホームページより

いかがでしょうか?

私達がちょっと旅行に行くだけで、1km移動するのにこれだけのCo2が排出されていることを意識しなくてはなりません。特に、自家用車で移動するとかなりのCo2が排出されているだけでなく、国民の半数以上がこの手段を利用しているのには改めて驚かされます。

SDGsで言うと以下に該当します。

7)「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

13)「気候変動に具体的な対策を」

7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに13.気候変動に具体的な対策を

【人間視点】

交差点

前項では、私達が旅行をすることで大量のCo2 を排出していることが判明しました。でも、最もCo2の排出が少ない鉄道とバスだけで旅行が成り立つのでしょうか?Co2の排出だけで見たら自家用車の旅行と海外旅行はできません。

家族や仲間だけで自家用車に乗ってワイワイガヤガヤはできないし、鉄道やバスでは昨今の新型コロナウィルスの面からみても心配ですし、旅行の費用も自家用車に比べて割高になってしまいます。

また、公共交通機関よりも自家用車の方がお年寄りや身体障害者には負担が少ないのも事実ですし、そもそも「旅行は必要不可欠か?」と問われれば、「旅行に行かないと死ぬ訳ではない。」と言わざるを得ません。

旅行はある意味、嗜好品(お酒、タバコ、砂糖等)と同じかも知れません・・・。

でも、毎日一生懸命に働いているのに旅行に行って気分転換もできない、歴史や文化、素晴らしい風景を直に感じることもできない人生はCo2だけの視点で無くして(或いは禁止)しても良いのでしょうか?

Co2を吐き出し、化学物質やプラスチックで環境を破壊し、戦争で他人を殺し続けている人間は自然界から見ると「害獣」かも知れません。しかし、旅行という気分転換や欲求、知的好奇心の具現化があるからこそ、私達は「精神的な健康」を維持できているのではないでしょうか?

SDGsで言うと以下に該当します。

3)「すべての人に健康と福祉を」

4)「質の高い教育をみんなに」

8)「働きがいも経済成長も」

3.すべての人に健康と福祉を4.質の高い教育をみんなに8.働きがいも 経済成長も

【産業視点】

公害

旅行に携わる産業は多岐に及びます。

まず、そのものズバリの観光業。観光で生計を立てているホテル・お土産店、飲食店等々の人・会社・自治体・国は枚挙に暇がありません。新型コロナウィルスの影響で、日本国内の観光地から外国人の姿が消えているということは、それだけ「お金が使われていない。」ことにもなりますので「景気が悪い。」となります。

これが新型コロナウィルスのせいではなく、SDGsの考え方が変な方向で進み世界中の人々が「行かなくても死なない旅行にCo2をまき散らしながら行くなどもってのほか。」となったらどうでしょうか。

この観光業は当然ですし、車や飛行機も利用しなくなる訳ですからそれらの産業とその従業員、石油・燃料系企業やその従業員、お土産や飲食店とその従業員、それらに食べ物や材料を納入・生産している会社やその従業員・・・には死活問題です。

観光庁の調べによると、訪日外国人旅行消費額では2019年に48,135億円あったものが2020年には7,446億円で約85%も減少しており、2021年は更に減少が加速していると言われています。

つまり、日本に来た外国人が日本国内で使ってくれていたお金が、日本人1人当たり約33,908/年分も減っている計算になりますから、経済が回らなくなるのも頷けます。

世界全体で見ると、世界のGDP10.4%を占めていた観光業の金額が5.5%と半分になり、約139兆円も落ち込んだとされています。

これらは新型コロナウィルスの影響によるデータですが、結果的にSDGsを意識し過ぎて人々が旅行に行かないと多くの産業や関連する人々が路頭に迷ってしまうことが分かります。特に観光立国には「貧しい国々」も多く、アフリカの国々でも2019-2020対比では約70%も観光客が減少して経済に甚大な影響を与え、貧困や飢餓に苦しめられる子供達が増加しているという報告が増えています。

SDGsで言うと以下に該当します。

1)「貧困をなくそう」

2)「飢餓をゼロに」

10)「人や国の不平等をなくそう」

1.貧困をなくそう2.飢餓をゼロに10.人や国の不平等をなくそう

【自然界視点】

自然の恵み

旅行が無くなり観光地への人の移動が少なくなると、自然は回復(自然は自然のままが一番自然。但し環境破壊の影響による消滅等を除く)します。石油エネルギーの消費が減り、Co2の発生が減り、持ち込まれるごみも消費されていたごみも減り、良い事ばかりと思えます。

ところが、実際には観光業が人々の生活を支えているお陰で自然環境が保全されているケースが世界には多く見られるのも事実なのです。

例えば、アマゾン川を中心とした森林には多くの原住民が暮らし、採取生活と共に焼畑農業も行っています。焼畑農業は森林を焼いて農地化するので森林面積は減少、それに伴って生物の数や種類も減少するので環境破壊の典型とも言われています。

そこで、彼ら原住民の生活・文化(祭りや儀式等)を観光資源としてPRし、彼らに観光という仕事(お金)を与えることにより採取や焼畑農業をしなくても生活ができる様にする・・・。「見世物」と言っては語弊がありますが、観光客と原住民と自然がWINWINの関係が成立していて、北極圏のイヌイット、ケニアのマサイ族等も同様の手法で環境破壊を抑えながら生活を維持しています。

まあ、お土産を売り付けられるという話も聞きますが・・・。

また、1970年代から「エコツーリズム」という概念が起こり、観光と自然保護の二律背反を上手く調和させる方向で各国・自治体が取り組んでいる場合もあります。いずれにせよ、人間の活動と自然保護とはどこかで必ず齟齬が生じますので、これらを両立していくことが大切です。

SDGsで言うと以下に該当します。

14)「海の豊かさを守ろう」

15)「陸の豊かさも守ろう」

14.魚の豊かさを守ろう15.陸の豊かさも守ろう

SDGsに問われていること

はてな

「旅行」というものを一つ掲げても様々な矛盾が出てきます。「あちらを立てれば、こちらが立たず」は、SDGsの問題点でもあるでしょう。

  • Co2を出さなければ全てが解決するのでしょうか?
  • 楽しみや好奇心を我慢すれば全てが丸く収まるのでしょうか?
  • 観光業に携わる産業はこの世に無くても良いものなのでしょうか?
  • 環境破壊を抑えるなら人間の生活は成り立たなくても仕方のないことなのでしょうか?

全てが「YES」であり、全てが「NO」でもあります。

では、「禅問答」とは何か?

まず、「禅」とは、「心が動揺することがなくなった状態」を意味するサンスクリット語のディヤーナの音写「禅那」の略です。「心が動揺することがなくなった状態」を生み出す手法として「座禅」があり、「禅」の目的は「精神を統一して【真理】を追究する」ことにあります。

【真理】とは、「いつどんな時も変わらない、正しい物事の道筋」とされています。

「禅問答」とは、ある疑問を投げかけ、その真理を答える修行の一つ。転じて内容が分かり辛い会話という意味もあります。

つまり、「禅問答」とは、「正しい物事の道筋とは?」、「正しい物事の道筋はこれだ!」の遣り取りと同時に「答えが分からない」という意味なのです。

そう。真理とは価値観、立場、環境等により千差万別だから、全てが「YES」であり、全てが「NO」でもあるのです。

SDGsは、私達の進むべき方向性を示してくれています。これは間違いではありません。問題は、SDGsを構成する17の目標と169のターゲットの「落としどころ」を私達各自が冷静に考え、バランスが保たれた行動を取ることです。

正解は、もう少し先の将来に分かることでしょう。

 

利根川 靖

監修

利根川 靖

株式会社利根川産業の二代目経営者。業界歴20年で東京都廃棄物の組合理事も兼任。
廃棄物業界を盛り上げようと地方の業者と連携。得意分野はITツールにて生産性を高めること。
これからの若い人材が業界で働きたくなる魅力づくりに奮闘中。

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